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カムストック第五十二談 「めくるめく日々」 最終週

前前前回よりの続きです。
いよいよ二月最後の第四週。
長いですけど、これで終わりですから。

それにしても何気なく軽い気持ちで書き出してみたら、仕上げるのに一週間もかかった…

二月二十二日(日)
今日は土日のみに活動が限定されているCチーム「女の戦い」の実質ラストの稽古日である。本番は二十八日であと一週間あるのだが、間の平日に来れる見込みのある人が少ない。
ということで、
朝十時から夜十時までぶっ通し稽古!
その間、本番の八回連続通しを実際に体験しておくという荒行に出る。
七十近い「三ちゃん」も在籍するチームである。
途中ろくに休憩もない状況で八回もやると、何がどうなってしまうかわかったものではない。
ぶっつけはこわすぎると踏んでのリーダーの決断。
最後ということで僕もつきっきりで八回連続につきあう。

午前中に不透明なところ、欠席で段取りわかってない人への説明など終えて、
いよいよ午後から荒行、始まる。
衣装、小道具、音響、すべて本番通りだが、
稽古場なので空間は本番と全然違う。
そう。
このチームだけは実際上演する図書館の空間でほぼ稽古できていないのだ!
そんな状況であれ、今日の八回通しはもうやるしかない。
そしてそんな状況でも、全員揃っているわけではない…。

始まった。
安定している。
そこそこ面白い。

一回目の通しですでに安心。
二回目までのプリセット想定は五分くらいでやっている。
その五分の間に僕がどどっとダメだし。
そして二回目。
同じようなトータル時間。十七分少し。
時間も安定している。
またまたダメだしして三回目…四回目…五回目…

全く疲れを感じさせない人達。
よく集中もしているので、ダメだしの意味がいまだかつてないほどにすぐに通る。
こっちも何回見ても飽きない。
これは面白いってことか?
そして一番すごいのは、
八回やっての一本あたりのトータル時間が、
十六分五十秒から十七分十秒くらいの間にぴたりとはまっている!
時間狙うのって相当に難しいとは思っていたが、できるもんだ。

八回目終了したのはもう五時過ぎ。
バテてる人は一人もいない。
「三ちゃん」達はケラケラ笑ってむしろ元気満々。
何かこの芝居をつかみきったという余裕すら漂う。

Cチームはこれで大丈夫。

五時半。
先週来れなくて明日も来れないC班の人用に、
最後の芝居「めくるめく宴」の動きの稽古。
稽古場でイメージするのは難しいのだが。

七時。
A班、D班稽古チェック。
A班も十七分で安定してきた。

不安の残るB班、この日は稽古の予定だったが欠席者ありということで作業日に。
「めくるめく宴」のマント、福耳、黒仮面の作業も急ピッチで進めなければならない。
B班中心に、できる人総出でマントづくりが別室で進む。

今回の稽古場は奈良2010年塾といって、
来る遷都千三百年祭に向けてプロデューサーを養成するための集団の施設を借りている。
元は旅館であったこの建物、部屋がいくつもあって、普段は使わない部屋も多いのだが、
この企画でフル稼働。
同時にいくつものことが並行してできる。これは大きかった。

AもDもCもうちの劇団員の稽古も作業も同時進行。

稽古終了後、十時まで頑張ってた人がすごく多くて車が足りない。
いつもは何やかんや全員車に分乗して帰れるのだが…

ということで劇団員チームは歩きで退散。
ホテルのあるJR奈良駅までは三十分くらい。

以前リーダー達とよくいった駅前のおすすめ居酒屋にて劇団員接待。
先週先々週の時点でそのビルが壊されたとか言って嘆いていたのだが、
単なる見間違いで、改装してただけだったのだ。
この店はかなりうまい。
創作料理が独特で外さない。
店名忘れたけど…
確か三条通り入ってすぐ、啓林堂の隣にあるビルの二階です。
一階の店もうまい。

普段ありえないが、
みんなはホテルどなりなのでタイムリミットなく、
俺だけが終電なんでとそそくさに退散するハメになってしまう。
終電だからって帰る人にブーイング浴びせることが多い僕ですが、
その辛く悔しい感じ、故郷にて味わいました。

二月二十三日(月)
図書情報館休館日。
今日は重要な一日になる。
本番仕様の最後のリハを夕方に行うのである。

まずは恒例の十時集合で「めくるめく宴」の稽古。
午後からは衣装合わせ。
歌のフレスコ録音。
照明打ち合わせ。
本番と同じ四時から全体リハである。

ところがどういうわけか先週に引き続き、今日も業者による大掃除が行われている。

しかもD班「怖い男」発表ゾーンでは確定申告が行われている。

掃除するから二時間はスペースあけてほしいとその朝言われる。

しかも確定申告あるのでリハ四時開始は無理だとその朝わかる。
D班の稽古もできない。

どよんとしたまま、それでもめげずに稽古スタート!
「めくるめく宴」の芝居を詰めるのは、これがラストチャンスである。
もちろん本番前日は情報館に入れるが、仕込みやテクニカルな場当たりやらで、
ほぼ芝居の練習をしている時間はない。
マントがようやく数が揃ってきている。
マントと仮面、そして耳の扱いの練習をやらないとこの芝居は成立しない。
徹底的に通しを繰り返す。
例によって最初は少なかった人が、だんだんと増えてくる。
一時までぶっ続け。
芝居はいいんだが、集団動きが、なかなか把握できない。
いつも何かを決める時に、誰かが足りない。
その人への伝達が何度手間にもなって、しかも正確さを欠く。
そのせいでいちいち同じミスが繰り返される。
何度言ってもよくならない。
ただ、エネルギーだけは相当なものである。
三十人近くが蠢いている、吹き抜けの広大な空間。
演出も思いっきり声を張らなければいけない。
名古屋の公演で少し痛めたこともあり、声どんどん枯れていく。

途中東京から衣装の木村さん到着。
通し、ダメだしの光景など見て
「こういうことなのか」とニヤリと面白げ。
なかなか口では説明しきれなかった、
この企画の持つ、途方もない面白みと、途方もない難しさを、
どうやら一瞬でわかってもらえたようだ。

一時までやりきって、
これでこの芝居の稽古は実質終了。
あとは通し稽古が三回やれるだけ。
今日夕方にやるリハで各自完璧に仕上げようということ、
マント中心にもう一度各自動きの確認をしておこうなどと言って、
そそくさとスペースを空けなければいけない。

大掃除…今やるか…

そのスキにみんなは休憩挟んで各チームの最終現地稽古へ。
こっちは衣装合わせ。
今回何点か木村さん率いる衣匠屋さんに製作を頼んだ衣装がある。
それが今ようやく届いて役者に合わせる。

やはり借りもの、役者陣オリジナルとは一味も二味も違うプロの衣装に、
着る役者はうれしそう。

二時。
主題歌録音。
今回は劇場でもないし、最後の「めくるめく宴」はいろんな方向にお客さんがいるので、
劇団員は全員マイクつけっぱなしで芝居する。
当然歌も主力になるということで、あらかじめ録音し、地声に重ねる。
うちの劇団は誰一人歌をちゃんと習ったことがないし、カラオケとかもそんなにうまくない。
なのに歌を挟むのが好きということで、
よくこういう録音の状況になるが、ミステイク連続で膨大な時間がかかる。
でも今回はほぼ一発か二発でOK。
予定を食った。
その分をBチーム「大和小泉式部日記」のチェックにあてる。
実はBチームの舞台スペースも書棚ならぶ特殊な空間で、
現地稽古でないと距離感はわからない。
見に行けば細かいチェックを続けている。
Bチームは二人の幼い子連れお母さんが参加してる。
その二人の子を従えながら、演出席で見ている姿を見て木村さんが笑っている。
三時、照明打ち合わせ。
いよいよリハ開始の時間が迫る。

リハは完全な形でなく、1ステージ分、各チーム四回通し回して最後に「めくるめく宴」
劇団員はナビゲーターとなって架空のお客さんを率いて移動経路のシュミレーション。
どこでどれほどのフリートークなりが必要か。どういう連絡をしあわないといけないかなどを今日とりあえずやってみるのだ。

緊張が走る。

確定申告終了までリハは始まらない。
四時半、スタートしてよしという話。

リハが始まる。

一番懸案は各チームの芝居時間のズレ。
そして各チーム相互の騒音。

とりあえず四回回してやってみてわかったことは、
実際客おらんと何とも言えないということ。
無線などの通信設備が実際ないと何とも言えないということ。
各芝居を十七分に揃えるということがとても重要だということ。
お客さんは全芝居が終了してから移動タイムになる。
一つでも遅いチームがあると、それを各地で待っているという時間が生まれる。
Bチームがやはり際立って長くて問題…
でも芝居が長いわけじゃなくて、間違いとか忘れが多発する結果だから…

いろいろやばいこと多いなということ。
まあやってよかった。

お客さんの気持ちで歩きながら四つの芝居見て、
最後に見る「めくるめく宴」はとてもいい。
音響さんにきっかけを説明しながらのリハ観劇だったけど。

不安とともに手ごたえも感じた。
不完全ながら、つくづくリハやってよかった。
この雲をつかむ企画の全体像がかすかに見えた。

そうこの日まで、僕にすら、そんなにはっきり見えてなかった。

残り時間でまた各チームチェックは退館の十時ギリギリまで続く。

情報館からはさすがに歩いて帰れないので何とかみなで分乗して帰る。

いよいよ次にここへ来る時は、
本番前日である。

二月二十四日(火)
朝から、ならどっとFM放送局へ迎えられる。
今回の企画にならどっとFMの人が二人参加している。
二人ともAチーム「怪物ツキガセタナモ」のメンツ。
さすがに忙しいし、休みが不定期な職業だけあってなかなか稽古に来れないのは最後の最後までネックだったが、
さすが人前での表現に慣れているという点では、若い初心者揃いのAチームにあって心強い本番用兵器といえる。

その二人との縁でこの日は生放送へ出演。
今回の企画や五月の「アザラシ」について三十分放談。

三十分も何しゃべろうかと多少不安だったが、
あっという間に終わる。
ラジオってそういうもんなんだったんだと、
昔、NHKラジオで生番組の準レギュラーだった頃のことを思い出す。
「日曜ラジオマガジン」…面白い番組だった。
あの番組からカムカムの「スパイス」シリーズなんかは誕生したんだった。
もう終わってしまったけど。

それはさておき、
この放送局は奈良町という、
今、奈良で一番きれいで新しく、観光スポットになっている街並みの一角にある。
このあたりは昔中学への通学路だったが、
今みたいにいろんな店が立ち並んでいた記憶はない。
久しぶりに歩いた気がするが、
なんか奈良とは思えない、興味津津な街並み。
飲み屋なんかも結構あるということを知る。

この放送局も昔ながらの古い家屋をそのまま放送局として使っていて
およそ予想のつかない面白い空間。
おじいちゃんちを思い出す。
奥にある蔵が、そのままBARになっているのもかっこいい。

そんなFM出演を堪能しながら、
午後からは稽古場へ。

今週からは劇団員と木村さんが本番まで常駐。
できる限りのサポートしていくことになっている。
早速マントづくりや小道具づくりで別室にて朝からフル稼働。

午後一は稽古不足気味のBチーム「小泉式部日記」

Bチームには音響さんがいないので、
空いてる役者が随時音響を操作することになっている。
しかし、それについての練習がほぼできていない。
きっかけも未だはっきりしていない。
しかもベテラン勢多く、機械が苦手ときている。

この日は徹底して通しをしていくことを目指す。
そのために劇団員を稽古に呼んでフルサポート体制。

洋子には音響機器に張り付いて音響操作の指導。
弥央には不在の役者の代役。
亀は子守り。
玲実は衣装縫いと分業制で臨む。

主要キャスト揃わないので、
かなりぬるかったオープニングダンスの見直しに時間をとる。

ベテラン勢にはカウント合わせは難しい。
でもつきっきりで何とかいけるところまできた。

音響のきっかけをはっきりさせる。

などなど明日以降、ちゃんとした通しができるように下ごしらえ。

三日前にやることではない。
不安解消できず。
このチームはいろいろ問題あってしょうがないのだが、
勝負は明日、明後日か。

人足りなくても強引に通し、通し。
時間が読めない…。

そんな稽古中にも木村さん総指揮のもとマント改善は進む。
マントは早替えグッズ。
なかなかうまくみんなが扱えないので、
試行錯誤を繰り返しながら大量生産を進める。
間に合うのだろうか?

夜は久々にみっちりとDチーム「怖い男」を見る。
もうかなり完成していて揺るがない。
時間もちょうど十七分。
これ以上煮詰めるには現地の空間でないと無理。
少しあいまいだったところを直す。
心配ない。

あとから聞くとDチームのメンバーは、他のチームに比べて
かなり放っとかれていたことに、不満げだったが、
ちゃんとできていたから、もっと不安なチームに回っていただけ。

役者やってるやつ多いから、ダメだしって欲しいものなのかな。
でも俺は他の演出家の作品に役者で出演してる時、
いかに口出されないようにやるかってことに全力注ぐけどね。
ホメ出しでもイヤ。
何にも言われないことがベストだって思ってる。

そんなことはどうでもいいんだが、
Dチームの芝居はセリフほとんどないのにドラマチックでいい。
硬い芝居のようで、野外での殺陣もあり、派手である。
一番演劇的で、俺としては一番好みの芝居。
通しも安泰。
Cチームに続いて上がり。あとは本番

そのDチーム稽古中も、稽古終わったBチームの残れる人達や稽古ないAチームも加わっての作業は行われている。

退館十時まで全員フル稼働。

今日は木村さん接待の意味も含めて飲み。
一昨日のおいしい店へ。
作業していたメンバーも何人か来る。
Dチームの連中とあまり話してないので最後に飲みたかったが、大阪勢多く、みんな速攻帰らねばならないから仕方ない。

そしてまた息つく間もなく、
僕は十二時の終電でそそくさと帰らなければならない。

でも何か久しぶりにゆっくりできた錯覚。

二月二十五日(水)
朝からBチーム稽古。
今日を含めてあと二回である。
準主役のお洋さん(六十代です)が久々の合流。

役の都合で音響操作が多く、しかもご本人は機械音痴。
アドリブみたいなもので固まってないシーンが多く、
そこの固めも集中的に行う。

一気にいろいろと課題が集中して、休む暇もない。
この段階でも来れない人が多いのはこのチームも同じ。

昨日に続き劇団員、音響、代役、衣装、子守にフル稼働。
強引に通し稽古の連発。

お洋さん、自分が言ったアドリブをいざ台詞として決めてしまうと
なかなか覚えられない。
「ゴリアテ」でもそうだった。
思わず言った言葉って論理性や因果がなかったりする。
そうだからこそ面白いのだが、
そうだからこそ覚えにくい。
丸覚えするしかない。
一日でやれというには酷な量だったが、もう時間がない。
追い詰めてることはわかりながら、厳しく追い立てる。

あとから「最後の三日間くらいは先生怖かったわ」って
最高齢のしいちゃんに言われたが、
まあ、怖い顔しないと、間に合わないっていうギリギリの事態だった。
アメとムチではない。ムチムチムチ!

おかげでだいぶ見飽きたと思える安定感が出てきた。
でも全員揃ってのことではない。
今日の変更はやはり覚えきれてない。
音響も不安。しかも本番は違う機械である。
明日が勝負だ。
Cチームに引き続き、明日こそBも八回通しに挑戦する。

夕方、衣匠屋、宗宮さん到着。
今回のオリジナル発注衣装はマント含め彼女のデザイン。
マントづくり作業時間作れる人総動員体制で進めているが、今だ終わらない。
貴重な助っ人。

「怖い男」の男役と「ツキガセタナモ」の鹿役、両発注衣装のキャラに木村さんのメイクを付け加える。
素晴らしい。
演劇っぽい!

夜はAチーム稽古。
別室ではもちろんマントづくり。
通し連発。
あれだけ不安定だったAチームが奇跡の安定感を見せ始めている。
芝居がミスやぼんやりでぶれなくなった。
時間も十七分でほぼ確定している。
稽古場にも余裕の笑みがこぼれる。
焦りに追われていた、つい一週間前には考えられなかった空気。
もう明日休んでもいいんじゃないかくらい思う。

細かい修正を繰り返しながら、通しを繰り返す。

その日は直帰。
いよいよ本番が近いという予感にうち震える。

二月二十六日(木)
今日が最後の稽古。
だがその前の午前中に、地元紙の「アザラシ」取材。
セント君看板と一緒に写真などを撮る。
ついでに城ホールの稲井さんと五月の打ち合わせ。

午後一稽古はもちろんBチーム「大和小泉式部日記」
さすがに全員揃った。
通し八回計画開始。
その間も別室ではマント、小道具でフル稼働。

最初の通し。時間はそこそこ。
しかし、やはり音響の間違いが多い。
昨日の変更点も体に入っていない。

通しと通しの間に少し返し稽古が必要になる。

繰り返す。
同じようなミスが起こる。
とにかく体に入ってない。
何回もやるしかない。
それにしてもこうなると本番、音響機材が違うことが気にかかる。

返し稽古、通し。返し。通し。

八回は無理だった。
だが、五回できた。
何とか平均十七分半くらいになっている。

これにてBチーム稽古終了。
本番への緊張に浸る間もなく、
今日が最後の稽古場からの撤収作業に追われてなかなか帰れない。
そのまま作業に流れ込む。

その間、夜はAチームとDチームの最終チェック。
両チームとも細かい修正をほどこすくらい。
大丈夫だと思う。

十時、作業のマント、小道具もどうやら間に合った。
全チーム撤収。
この施設に来るのも今日が最後という感慨。

鬼のように部屋中に積んであった小道具や衣装がきれいさっぱり消えた部屋。
思えば九月に最初のリーダーワークショップをやった時は、
こんな風に何もないだだっぴろい部屋だったと思いだす。

明日の現地への道具の輸送のため、そんなに大勢を車で送れない雰囲気。
劇団員チームはやはり徒歩で退散。

近鉄周辺で飲むという木村さんと他の劇団員メンツと別れて一人直帰。
近鉄周辺だとさらに早く終電のために出なくてはいけない。
その時点から言っても三十分くらいしか飲めない…
この終電問題、面倒くさかった…

さあ、明日は仕込み。

かつてない規模の、このいよいよ感。

一人歩く夜道でも、昂りを隠せない。

二月二十七日(金)
朝十時、図書情報館入り。
すでに仕込みは始まっている。
およそ図書館とは思えぬ大変な喧騒を覚悟して踏み入れるが、わりに静か。
空間がバカでかいので、劇場みたいに仕込の慌しさが一つになることはないということか。騒がしさが各局地的で、全体的にはのんびりとした静かな空気が漂う館内。

そののんびりさ加減に根拠のない焦りを感じる、慌しい仕込み慣れしすぎているカムカム勢。

各チームの舞台は設営中。
Dチームの舞台奥には今日でさえ確定申告が行われている部屋があって一般人が出入りしている。

前日からもめて、ようやく受付通路を館外に移動してもらった。下手するとゲネもできないところだった。
ま、それでも確定申告はやっているので、一般人と遭遇する若干の危険はあるという状況。怪訝そうにのぞきこんでくる確定申告に来た罪なき人達。しかしこれで強行。

朝十時からは、ラスト「めくるめく宴」のランドマーク、Dエピソード「怖い男」のラストで植えられた鈴の種が、樹齢千三百年をかけて育った大樹の製作。

布で作るのだが、でかいため、あらかじめ作って置いておけない。ということで来れる人は総動員で、美術さん(奈良教育大学生ますださん)の指示のもと、人海戦術で当日製作。
台紙に布を縫い合わせ、ワイヤに布を巻きつけて枝を作る。
メイン舞台の居並ぶパソコン円卓からパソコンを撤去、これまた布で装飾していく。昼過ぎまで製作。
大階段を囲うアーチのように木の幹を立てかけると、その時点でかなりダイナミックな絵。それに加えて枝をいろんな方向に伸ばす。根っこも丁寧に作ると、布を巻いた円卓が、コケに覆われた木の幹に見える
まるで屋久島原生林。
すばらしい美術。
もはや図書館とは思えぬ虚構空間。

図書館、舞台スタッフ、劇団、三つのセクションが一つになって動くナビゲーターチームが初顔合わせ。

先週のリハよりもより具体的な客誘導の綿密な打ち合わせが始まる。

各チーム場当たり開始。
照明、音響、デハケの動き。
通常は演出が全部チェックしないといけないことだが、時間がなくて四チームが同時に場当たりということになっている。図書館中を走り回って全チームのチェックをしようとするがもちろんチェックしきれない。もはやサイは投げられている。すなわちもはや半分以上は演出の手の届かぬところで進んでいく…。それでも汗だくで走り回ってギリギリまであがいた。

ラスト「めくるめく宴」場当たり。
これはマイク、SEなどもあるし、照明もいろんな変化をする。
通常の芝居の場当たりに近い進行。
きっかけはすべてあたる感じ。
客席があちこちに散在しているので、見切れのチェックが大変。ある程度は致し方なし。

初めてマイク入った状態で、主題歌を聞く。
すばらしい。
人数も今まで一番多く参加しての練習。
場当たりなのに少し感極まる。
これは大丈夫。

少しだけ休んで四時半頃ゲネプロ始まる。
客もいるという態で、すべてを本番どおりにリハーサル。
しかし時間がないので四回回しはできない。
各チームゲネは一回だけ。
すなわち、演出家である僕がチェックできるのは四つのうち一つ。
サイは投げられている。
とは言え、演出家チェックできないとゲネとは言いがたし。
それでも走り回って各チームを少しづつ見た。
少しづつじゃわからなかった。

最後の「めくるめく宴」はじっくりゲネ。
出演者は場当たりよりさらに増えて、ほぼ本番と同じ人数。
よいよい。

ゲネ終了。
マントの扱いが相変わらずうまくできないこと以外は問題なし。

とてもうまい夕飯食って各チーム、セクションで十時まで最終チェック。ここまで来てもまだまだ課題は多い。
ギリギリまであがく。
このギリギリまであがくっていう感覚が、
僕としては演劇やってる醍醐味なのだと思う。

いつもながら、今日も疲れきった。

でもこの疲労感もいよいよ明日で報われる。
明日は午前八時入り。

早く寝ないといけない。
早く寝ないといけない日って、その興奮で必ず寝られないんだが、
この日は速攻寝れたようだ。
ま、あそこまで疲れりゃ、精神的に惑ってる余裕もない。

二月二十八日(土)
本番当日。
午前八時。
打ち上げが深夜におよぶことを考え、いつでも帰れるように実家の自転車を借りて、図書情報館へ。

外は真っ白の濃霧。

奈良ではよくあるというが、あまり記憶がない。
そのくらい本気で前が見えない。
山登り級の霧。

佐保川堤防沿いの砂利道を進むが、
砂利道のでこぼこや泥だまりが直前まで見えないので、
はねたり、はまったり、ズボンがドロドロになる。

五メートルくらいしか視界がないので、
飛び出してくる車を恐れてこわごわペダルをこぐ。
一番怖かったのは信号ないところで国道渡る時。
車が来てるのか来てないのか全く見えない。

そんな状態で約二十分。

霧の中に突然浮かび上がる白亜の巨大建造物。
県立奈良図書情報館到着。
底冷えする朝に汗だく。
冷え切った耳が痛い。

そんな劇的な感じで幕を開けためくるめく劇的な一日・・・。

到着後、あまりの汗だくの様を若干名に笑われながら、まず着替え。

八時に着いて九時には正真正銘の最終リハスタートである。
何せ今日のマチネ開場は十一時。開演は十二時。
まあ最終リハと言っても昨日と同じ。
各チーム一回通しと最後の「めくるめく」一回。
相変わらず全チームチェックできないというゲネ。

大急ぎでみんな準備にかかりっきり。
ナビゲイトチームも誘導段取りの確認に大忙し。
僕は僕で何かと大忙し。
昨日から地元の新聞、テレビ数社が取材をしてくれている。
少し立ち止まってると突然インタビューされたりする。

いよいよですね!
みたいにして質問される。

誘導時に流れる館内放送のテストが流れている。
広い空間に行きわたるアナウンスっていうのは、どういうわけか心が沸き立つ。
例えば野球見に行って、通路から球場に一歩入った瞬間に聞こえる場内アナウンス。
あとは空港ターミナル。
いずれにせよ、これから大きな出来事が待っている時にそういうことが多いので、条件づけされているのか、やたらとワクワクする。

ろくに参加メンバーと顔も合わせないまま、
午前九時最終ゲネスタート。

相変わらず全チームチェックできないので、半分あきらめの境地なんだが、やはりあとの半分であきらめきれずに走り回って見回る。

いろいろ問題あったが、もはや注意してる時間もない。
「鈴木の大地」6時間版の際のゲネを思い出す。
ゲネが終わって膨大な修正点のメモを持ちながら、開場しますの声が聞こえて、そのまま全部捨てた…あの日に似ている無力感。

最終「めくるめく宴」始まる。

これに関しては、もう芝居は大丈夫なのではじめて三階席からチェック。
これは特等席。集団の動きが一番よく見える。
ただ望んでもこの席は選べない。
会場に到着した順で振り分けられるお客さんの組分け。
その一つの組の一部の人だけが、この特等席から宴を見れる。

結果、全方向でこの芝居を見たのは僕だけではないだろうか。
本当に席によって印象が違う。
映像として残すならうまく編集したいところ。
ただ、どこから見ても感動する。

マントうまくいかない。
でももはや些細な問題だった。

最終ゲネ終わり、開場二十分前。

「さあいよいよ、頑張ってこれまでの成果を出しましょう」
的なコメントするが、そこで気合い入るとか、感動するとか、そういう空気ではなくて、一刻も早く開演の準備しないと間に合わないから急げ急げ!であまり耳にも入らないで、各舞台へ散っていく。

少しだけ注意点言って回るが、本当に少しだけ。
マント技は本番で仕上げましょう、とか。

あまりに忙しい状況だからか、心配してた皆の緊張も今のところ感じられない。
緊張って余裕がないとしないものかも。

僕の作る芝居はだいたいいつもこんな感じで本番を迎える。
じっくりと瞑想して気合い入れをして本番に挑むとか、そんな余地は一切ない。
ただただギリギリまで慌ただしく奔走!
時間との本当にシビアな競争なのである。
ギリギリのところまでこっちは逃げない。
F1で、抜きにきた後続車が寄せてくるのを、接触スレスレまで逃げずに、なかなか抜かせないみたいな感じ。

開場十分前に飯食いゾーンへ。
出演者もちらほら。
みんなゆったりとして談笑している
彼らにとって開場してから開演までが、ようやくの休み時間なのである。
こうして談笑する時間も今月はほとんどなかったのかもしれない。
初日開演前とは思えぬリラックスムード。
僕だけが、迫る開場時間にピリピリ。
何せ、この企画、実際客入れてみないとわからないことがいっぱいありすぎる!

午前十一時。開場。
いよいよか!と感慨深くうなる瞬間なし。そのシーンは編集か何かで飛ばされたかのように、一気にお客さんがなだれ込む。

開演一時間前だというのに、なぜこんなに?
奈良の人って動き早い。
あとから聞いたら、やはり車で来る人は遅れないように早めに来るということ、もし遅く行って駐車場埋まってたらとか、そういう心配の挙句、めちゃめちゃ早く来るらしい。

お客さん五十人が入った段階で1組となり、最初の芝居ゾーンへスタートする。
開場した瞬間の最初の波は四十人くらい、あとの十人がなかなか来ない。
その間先着のお客さんはロビーで立ちっぱなし。
ナビゲーターが一生懸命システムを説明しているがよく聞こえてないので、不満気な雰囲気。手違いな雰囲気。お年めした方も多く立ちっぱなしで放置しているのがつらい。この事態をうまく想定できていなかったこちらの手落ち…

十一時半。ようやく一組目が五十人揃って、まずは亀岡ナビゲーターの誘導のもと、Cチーム「女の戦い」を最初に見る組がCゾーンへ出発。

ここからは五十人揃うまでの流れが速く、待ち時間もたいしたことない。
十分くらいして続いて田端ナビゲーターの組が出発。
また十分くらいして長谷部ナビゲーターの組が出発。

ラストは米田ナビゲーター。
ギリギリ駆け込みの人、遅れてきた人はみなここへ合流する。
この組はロビー横すぐに設営されたAチーム「怪物ツキガセタナモ」から観劇していく組。

開演五分前。

客の入場総数見込みを読み間違ったか、米田組にほとんど人がいない。
そして東京と違ってギリギリに来る人が逆にいない。
このままでは4組中1組がほぼ不在になってしまう。
Aチームなんて開演と同時に出てみたら、客いないっていうスタートになってしまう。
あくまで4組が一斉にうごめく移動をして、同じ芝居を順不同でみることがこの企画の欠かせぬ醍醐味。
舞台監督判断で急きょ、先行長谷部チームの何割かを呼び戻し、米田チームに回す。
これで何とか体裁はととのった。
米田チームAゾーンにて着席。
ここに僕や木村さん、広島から駆けつけてくれた作曲の今村さんも客として着席。

僕はどうしてもこの企画を個人的に記録に残したくて
頼まれてもないのに、ビデオ撮影をやる。

米田の慣れない前説。
客に緊張を強いている。
まあろくに練習もしてないから無理もないが。
他のゾーンは大丈夫だろうか?と心配になる。

そして12時。4ゾーン一斉の開幕。

Aチーム、いつもどおりやれている。
緊張もない平然とした様に少し感心する。
一番本番で崩れるのではないかと思っていたが、
やはり稽古量の多さが経験不足を上回ったか。

わかっていたことだが他のチームの音がうるさい。
だが、それがまた、ある妙なライブ感を醸し出してもいる。

終了。

他のどこかのチームが終わってないようで、館内放送がすぐに入らない。

葬式のような後説。
戸惑う客。

館内放送流れる
終了
芝居は問題なし。

ただ客席に段差がなくて非常に見ずらい。
これはこちらの手落ち。
段差一度は提案したが却下された。
食い下がっておくべきであった…。

客席大移動。
緊張の一瞬。
とにかくここが一番緊張した。
どういうことになるか。
どういうことが起きるか。

案の定滞る。

渋滞。
イライラ。
案内不足。
移動と言っても、各舞台スタンバイ待ちでじっと棒立ちで待たされている時間が大半になっている。何かがトラブっているかのような空気。
イラついたのか、客同士での口論も起こっている。
かなり時間かかるが何とか2ステージ目始まる。

2ステージ目はDチーム。
ほぼ生音だけで構成される演劇的な舞台。
だがそのせいで、他のチームの音がものすごく邪魔になる。
それでも集中力と力強い演技で芝居世界を持ちこたえてるところは立派。
息を詰め、食い入るように見ている客。

惜しむらくはやはりここも二列目から見にくかったこと。

クライマックス、突然舞台が客の背中側ガラス越し、野外の庭園に移る。
お客さんは全員振り返らなくてはいけない。
どこまでも観客参加型のこの企画。

野外を大きく使っての殺陣。
広い庭園には普通に散歩に来た人の姿もある。
庭園の向こうには小学校がある。
平和な現代の光景の中で繰り広げられる千三百年前の惨劇シーン。
遠くから結構な距離を全力で走ってくる男の姿がいい。

してやったり。
これは奇妙な芝居体験として、きっと見た人の記憶に残るはず。
怖い男役のアイヌ文化みたいなメイクと衣装は、あの白一色の人工的空間にも、現代の屋外の自然の光景にも違和感としてよく映えている。

ただ寒い。
場外への通路が開けっ放しだから。

終了。
わりとすぐに館内放送。
ほぼ4チームが同時に終わったということ。

大移動二回目。
やはり無駄口発せないような、まるで葬式か何かのような暗く緊張の移動時間になってしまっている。もう少し移動でワクワクできればいいのだが。

3ステージ目に見たのはBチーム。
不安的中。
緊張と稽古不足のためのケアレスミス多発。
ただし、
相当客にウケていた。
笑いとってた。

結果オーライ。
それで十分。

Bチームは年齢層高く、あるどっしりとした余裕がある。
そう簡単には揺るがない、人生経験の重しをまとっている。
そんな人が無邪気に、そして一生懸命に演技している姿は、とても安心してニコニコ見れるのである。

大移動。
歩いてる客に疲れが見える。
ここまでで一時間半を超えている。
そろそろ見る方の集中力も切れかけている。

4ステージ目はCチーム。
とにかく安定している。
芝居がぶれない。
他より稽古してないはずのにチームとしての結束が素晴らしい。
3ちゃんも相変わらずの陽気さであっけらかんと健闘。ウケている。

内容も楽しいものなので、あとから「女の戦い」は人気だったけれども、やはいりいろいろ聞いていくと、どのチームに限らず、4つ目に見ることになったた芝居がちょっとしんどかったという意見が多かった。
疲労と飽きの問題。
とにかく移動に時間かかりすぎ。そして移動が楽しくなるという、僕としては一番大事なコンセプトが達成されてない。

4つ目のクール終了。
ようやく休憩。ここで二時間経っている。

騒然とした休憩。
トイレに行き交う人々。
とにかく騒然としている。
いろんな感情が入り混じって交錯している。
今まであったものは何なのか?これから何が待っているのか?という不安と期待。

何せ今まで4つの組に分かれていたお客さんである。
今までの感覚では自分と同じような客は五十人。
視界に入るのが学校の1クラスくらいの感覚だったのが、
急に二百人近くが一つの舞台を囲んでいる状態になったわけだ。

しかもその中央舞台には、あの昨日みんなで作った大樹がデーンと根を下ろし、枝を張り巡らせている。

この騒然とした空気感、何が起こるか分からない緊張感、これぞ求めていたものなんだ、と、最初にこの企画を僕にふってくれた方が、興奮げに話してくれる。

僕もまた騒然として、そして粛々としてラストの舞台の開演を待つ。

テレビ局のカメラがスタンバイする。

大声では雑談できない客席の何とも言えない空気。

何せここまで見てきて誰もが確信できることは、
ここからの展開は予想しようがないのだということだから。

「めくるめく宴」の衣装に着替えた各チームメンツ達が束になって、堂々と客席を横切って続々と集結してくる。ここは劇場ではない。そうやって入っていくしか、最後の舞台にスタンバイできないのだ。でもその光景もまた、不気味な騒然さに拍車をかける。

まさにこれは、まるで事件のようだ。

開演近しのアナウンスが流れて客が全員席に着く。

「めくるめく宴」が始まる。

その主人公たちは、各組お客さんを今日ナビゲイトし続けた、ガイドさん、すなわち、カムカムの四人の役者である。

今日、開演してから歩いて辿ったミニマムでリアルな時の流れ、
そして、物語、四つのエピソードから千三百年流れた巨大な虚構の時の流れ、
二つの時がシンクロする結節点が、最終現代エピソードで主役を演じるナビゲーターの存在である。

ここはこの企画の要だった。

そのシンクロが成立したかどうか。
それはひとえに、移動時間にナビゲーターの個性が認識されていたかどうかによる。

「めくるめく宴」は進む。
僕は今度は側面からの映像を記録しながら見ている。
そんな状態でも、五十余人全員が揃って歌い踊る姿は感動である。

最後にずらっと大階段を埋め尽くした、あの光景は絶対に忘れられない。

マチネ終了。二時三十分。
三時がソアレ開場の時間である。
ひと芝居終えた感激を感じる間もなくプリセット!スタンバイ!

戸惑い、怒り、笑い、泣き、日常では味わえない幅での、いろんな感情の起伏を短時間で経たであろう、マチネのお客さん。そして歩き、待ち続けた肉体の疲労が、一つの記憶として刻まれるであろうこの体験。

マチネとソアレの間にまた、新聞にインタビューをされる。

今の試合はどうでしたか?
手ごたえは?
次の試合に向けての収穫はありましたか?
次の試合に向けての一言…

ステージという言葉を試合に置き換えれば、まるでヒーローインタビューみたいな取材を受けている時に、記者の方から実際に見たお客さんの声を教えてくれたんだが、みんな思いのほか最後の宴で感動してくれてるみたい。ってことは、前フリである各チームの芝居がしっかり伝わってたってことだ。いい話じゃないか。

なんていろいろ言ってるうちにまもなくソアレ開場。

合間の三十分にできた修正と言えば、
劇団員に怒ってナビゲイトをもっとちゃんとやれって怒鳴ること。
しっかり笑いとって、話術で統率を図り、移動指示を潤滑にする。
各組五十人を確実につかんで自分の存在を売っておけ!
そうでないと最後に出てる意味がない!

恫喝するだけで効果が出るのが、いつも一緒にやってる劇団員のいいところ。
と信じて人前にもかかわらず恫喝!
見守る図書館スタッフの人達にもそういう緊張感伝えたくて、わざと大声で怒ったりして…

五分前、あわてて食事ゾーンへ。
相変わらず、開場してから開演までが唯一の休みである皆が談笑している。
何かリラックスしてて安心。
というか1ステージ乗り切った余裕というか、
もっと言ってしまえば、驚くべきことだが、
成長、が見える。
あ、成長したな、と思った瞬間に、初めて会った時のことを思い出す。
大抵のメンバーは昨年の秋の個別顔合わせが最初に会った時。

たくましくなった。

これは、
男にも、
女にも、
そして最もそこで談笑していた3ちゃんレベルの人生のベテランにすら、
最大の賛辞として贈る言葉。

みんな動じてない。
自信の裏付けがある。
素晴らしい。

僕も朝ほど焦りはない。
もうどうなるかわかった。
どういうところがたるくなるかわかった。
そしてその対応は施した
これで間違うはずはない。

僕もこの企画で、
たくましくなった。

午後三時開場
朝とはまた流れが違う。
でも反省を生かして、
誰もまだいない時からロビーをマイクトークで温める亀。
不安げに入場してきたお客さんが、まずロビーでほほ笑む。
これでいい。

恫喝がきいたのか、他の連中もナビゲイトを面白くしている。
待ってる客が沸いている。
雑談もにぎやか。
これでいい。

午後四時開演。

するっと開演。
最後の最後である。
最後だから悔いのないように、とか、そういう時間もなく、
とにかくするっと開演。

そして、
するっと終演…。


完璧じゃないかな、これは?

演劇ってこれのことじゃないかな?

俺は人の可能性を低く見ていたよ。

なんて思った。


芝居ってのは山登りに似ていて、
山頂で感動して終わりじゃない。
それは束の間、
すぐに切り替えて山を下りないといけない。
本番がはねて、よっしやったあああ!じゃなくて、
終わった瞬間にもう、片付ける段取り。
我々は今日中にここからきれいさっぱり撤収しないといけない。
跡形もなく、この虚構が現実に出現した痕跡を消し去らねばならない。

そうすればこの虚構が虚構であった証拠はない。
見た人の心に残る記憶は、
現実か虚構か。
虚実の皮膜を曖昧にすること。
これが演劇というもの仕事だ。

僕はこんなにリアルな芝居を今までやったこともないし、見たこともない。
あえてリアルという昨今嫌な言葉を使うけれども、
虚構の世界が自分の周りに似ているからといって、その演技形態や劇世界をとってリアルなんて言葉で片付けることの偽善さを思い知らされる。

胸を張って、この「めくるめく図書館」の体験が触感としてリアルであったことを報告する。
演技のうまい下手ではない。
集中力云々でもない。
ましてや、芝居心とかそういう話ではない。

演じようという人がいて、演じる役というものがあって、そこを結び付ける運動すべてが現実世界に作用する様。
その様を演劇と呼び、
その様の触感の生々しさの度合をとってリアルというのが筋ではないか。

だとすれば、そこにおいて達者とか技術とかいう概念はもはやそれほど重要なことではないのではないか。

その運動が現実世界にどう作用するのか。
それはその運動の結晶として表出するこの「めくるめく図書館」という作品が、見た人にいかに作用するのかということでもあり、同時に同レベルで、この作品に参加したということが、出演者達にいかに作用するのかということだ。

という意味も含めて、

これは「挑戦〜チャレンジ〜」ではなかった。「挑戦」には目標がある。
「めくるめく図書館」の目標は、もしあったとすれば2.28という日付だけだった。すなわち、〜にチャレンジの〜の部分にあてはまるものがないのだから。

これはまた「祭り〜フェスティバル〜」でもなかった。
祭りというのは溜めこんだ過剰なものの蕩尽である。
「めくるめく図書館」はただ蕩尽ではなかった。
学園祭みたいだけど、学園祭とは明らかに違った。
むしろ参加者にとっても客にとっても、それは溜めこむ側面に属する出来事だったということではないだろうか。

これはまた「冒険〜アドベンチャー〜」でもなかった。
冒険とはあてどなく、長い時間と長い距離を移動する旅である。
だがこれは旅ではなかった。
長い距離を移動して未知の大陸に出会うわけではない。
大陸はもう具体的にそこにある。
それは空間的には具体的に現前する図書情報館であり、
時間的には、2.28の一日なのであった。

ならば、

「探検〜ディスカバリー〜」

という言葉なんかどうだろう。
今回のこの企画は、参加者達にとっては九月から半年にもわたって続いた長い「探検」だった。
初秋、そこには未知のジャングルがあった。鬱蒼として不気味な鳴き声が聞こえるジャングル。

だがそこに踏み入ることで何かの富を発見するかもしれない。

その可能性だけを頼りに我々はそこに踏み入っていくわけだ。

そう。
ここに集った人々は皆等しく、
可能性に憑かれた人々なのである。

地図にない鬱蒼としたジャングルにどうしても魅かれてしまう人々。
それは他ならぬ自分自身への思いの裏返しである。
彼らは自分の中にある未知のジャングルに魅かれているのである。
その鬱蒼として謎の大地を「探検」したくてたまらなかったのだ。

大いなる期待と不安を込めて。

だから探検隊に応募してくれた。

そして共に探検したのだ。

図書情報館を。
演劇を。
物語を。
千三百年の歴史を。
2008年末から2009年の初頭の時を。

そしてそれぞれに自分自身を。

それぞれお互いに、ここで会わなければ一生会わなかった五十人余の他人を。

お客さんも全く同じ。

暗い館内を先も見えないまま歩き回るこの観劇は、
まさに「探検」そのものであったはず。

そして「探検」の果てには「発見」がある…

午後九時。
慌ただしく撤収が終了していく。
虚構空間だった図書館が図書館に徐々に戻っていく。

出演者全員集合。
締めのあいさつ。
打ち上げがすぐにあるが、
帰らないといけない人もいっぱいいる。

3ちゃんが明るく帰る。
「先生ありがとうございました。楽しかったです」
3ちゃんは僕のことを最後まで先生と呼んだ。
ひょっとすると僕の名前をわかってない可能性すらある。
こんな明るいおばあちゃん達だったが、
1ステージ目を終えた時に、リーダーに抱きついて腰砕けで泣き崩れたという。
「不安で不安でしょうがなかったんです!」
でも今はもう明るくケラケラ笑っている。
その明るさに、その別れに、今日一番感極まった。

他にも何人か、それっきり帰る人がいた。
何せ五十人くらいいる。動きを把握できず、ちゃんと別れも言えずに、それっきりになってしまった人もいたのが悔やまれる。

Bチームのベテラン陣も軒並みこれっきり。
真っ暗な館外の駐車場にてもう一度最後のチームミーティングをして締めている。口々にみんながしゃべって話が進まないのは相変わらず。最後の最後まで、はい、話聞いて!っていう声が聞こえるのがおかしい。

Dチームは大阪勢が多い。
打ち上げ場所が駅から遠い情報館近くだったので、
参加すると終電までに帰れない。
ということで、ほとんどが全体打ち上げには参加せず、
駅近くでチームだけで打ち上げするらしい。

そんなこんなで情報館近くの銭湯施設で打ち上げ。
二次会はカラオケ屋で朝まで。

途中段々と人数減ってくるわけだが、
二次会になって結局終電逃したDチームが戻ってきたりして増減を繰り返す。
僕はもはや打ち上げの記憶はほとんどない。
特に二次会に至っては全くないといっていい。
誰がいつ帰ったか、誰がいたのかさだかにはわからない。
久しぶりに泥酔レベルまで飲んで、何時に帰ったかもさだかではないが、
突然もうこれは寝てしまうと感じて、
じゃあ帰るわ、と言ってささっと自転車でカラオケ屋を出た。

途中何か道路のへこみにはまって、転倒したようだが定かではない。
翌朝起きたらズボンがドロドロで、膝や腕に擦り傷があった。
もちろん翌日は二日酔い…

まあ楽しかったということ。

記念にみんなの寄せ書きをもらった。

高校生の子が
「いつまでもこのことを忘れません」と書いてくれている。
七十のおばあちゃんが
「一生の思い出です」と書いてくれている。

「いつまでも」とか「一生の」とかって、
もう安っぽい、嘘くさい、軽い言葉だと思ってたけど、
気持ちがこもれば、こんなにも美しく重い言葉だってことに気づかされる。

辛い世の中だけど、
まだまだ純粋に生きるってことはできるし、
純粋に生きる価値っていうのもしっかりとあるし、
それを繋ぐ美しい言葉っていうのもしっかりと存在するし、
「めくるめく図書館」は企画も物語も、
まさにそういうことがメインテーマだったけど、

この事件は、希望というものの証拠になる。

ラストの歌。
僕としては今まで描いたことがないというほどのハッピーエンド。

物語も、企画も、本当にハッピーエンドだった。

そしてこんな風にハッピーエンドが描けたということが、
自分としていかに鍛えられ、たくましく成長したかという証だと思い、

関係したすべての方々に感謝します。


こうしてめくるめく二月が終わる。

何もかもがよかったと思える。

終わり


at 12:36, 松村武, -

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